商標を未登録で使用するリスク

前々回、お店などでは、商品と小売等の両区分で権利を取得する必要があることをご説明しました。では、いずれの登録もぜずに、使用し続けた場合、どのようなことが起こるのでしょうか?架空のお店で、考えてみます。

お店は、子供用のメガネを専門に扱うショップとします。お店の名前は「こどものメガネ」と決定しました。しかしながら、区分9(眼鏡)も、区分35(眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供)も登録はしていません。

 

開業届に店名「こどものメガネ」を記載して、税務署に提出すれば、事業開始です。商標登録については、気にしつつも、後回しにしていました。しかし、何も起こりません。一安心。

 

1年なんとかお店を維持しつつも、宣伝が十分でないのか、立地条件がわるいのか、まったくメガネが売れません。2年目に突入。あるTV取材をきっかけに、オリジナルデザインの「ことものメガネ」が爆発的にうれました。オリジナルメガネのおかげで、商品も、お店の名前も、全国的に有名になっていきました。

 

1年の苦労が報われたと、喜んでいたある日、1通の封書が届きます。「警告書」です。商標「こどものメガネ」の使用差止と、損賠償請求でした。記載されていた登録商標は予想どうり。

 

登録○号 商標『こどものメガネ』区分9(眼鏡),35(眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供)

 

開業時に登録を予定していた内容そのものでした。商標権者には、以下の権利行使が認められています。

商標法第36条第1項(差止請求権)

商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又専用使用権を侵害する者又は侵害する恐れがあるものに対しその侵害の停止又は予防を請求することができる。

民法第709条(不法行為による損害賠償)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって、生じた損害を賠償する責任を負う。

店主は、登録申請の意思はあったが、つい開業の忙しさから、不注意で登録を忘れただけであると主張しました。しかし、商標法第36条第1項(差止請求権)は、不注意であっても免れることはできないのです。損害賠償はどうでしょうか。民法第709条は、「故意又は過失」を要件としています。「故意又は過失」の立証責任は、訴えた原告側にあります。よって「故意又は過失」が立証されなければ、損害賠償請求については、免れる可能性があります。ただ、商標権侵害となると...

商標法第39条(過失の推定)準用する特許法103条

他人の商標権又は専用使用権を侵害した者は、その侵害行為について過失があったものと推定する。

商標39条(過失の推定)は強力です。商標権侵害者は、この条文により、過失があったと推定されます。すなわち、民法第709条「故意又は過失」の要件を満たすことになります。商標権のこわさがここに現れています。これを覆すには、裁判において、過失がなかったことを自ら立証しなければなりません。本ケースはまさに不注意であり、過失でないとの立証は困難と考えられます。

数ヵ月後、1通の書類が税務署に提出されました。メガネショップ「こどものメガネ」廃業届。

商標の未登録使用について、必ずこのような警告書等が届くとはかぎりません。商標権者が、いつ権利を行使するかは、権利者の意思に左右されるからです。ただ、未登録で商標を使用している方には、商標法第39条(過失の推定)規定が働く可能性があるので、ご注意ください。